家が火事に…(後)

消防のサイレンが近くまで来ると、近所の方達が駆けつけてきました。


風下のお宅は、離れていても焦げ臭い匂いが風に乗って、
いち早く気付いてやってきました。


「あんた、どうしちゃったのよ!?」「わかりません、突然屋根から煙が出始めて」
私は、泣きじゃくりながら答えました。
瓦の間から炎が出ているのを、どうすることもできず泣きながら見上げ、
もうおしまいだと思わずにはいられませんでした。


肩をギュッと抱いてくれる人、一緒に涙ぐんでくれる人、泣いても仕方ないのだから
泣くな!と叱る人、みな、近所の方々がそれぞれに私を励まし、慰めてくれました。


消防車や救急車パトカーが続々と到着し、それと同時に、
近所で見かけない人たちも集まってきました。


最初に到着した消防団のおじさんが、泣きじゃくる私を抱えて、
「大丈夫ですよ、ちゃんと消してあげるからね」とおっしゃり、私はただ、
「お願いします、お願いします」と泣きました。


動揺が激しいという事で、私は救急車に入れられてしまいましたので、
その後の消火の様子は実際に見ていません。
犬はお隣の方が看てくれて、猫は自力で脱出したと聞きました。


救急車の中で、事情聴取がありました。
消防の方、救急の方、警察の方、それぞれに名前、住所、家族構成、
火事と気付いた時のことを何回も聞かれました。
特に、警察の方からは、朝起きてから時系列で事細かに行動を尋ねられ、
その際に火元となるようなものを使用したかどうかを確認されました。


そのうちに、消防の方が、ソーラーの電源はどこにあるかと尋ねました。
私は、入居してから6年間、ソーラーの電源を触ったことも無く、何となく
それらしきものはあるけれど、それが電源なのかどうかさえ
良く分からなかったのです。
なんでも、消防士の方々が、消火活動中に感電していると言われ、驚きました。


ハウスメーカーの人達が呼ばれ、電源は落とされましたが、ソーラーは
日が出ている限りは電気を作り続けるようになっているらしく、結局、
日が暮れるまで、感電状態は続いたようです。


消防の方々の、危険と背中合わせの中での活躍のおかげで、ご近所に
火が移ると言う事はなく、怪我人も出さずに鎮火することが出来ました。
仕事とは言え、大変危険な活動です。
本当に、消防の方々に感謝してもしきれません。


ハウスメーカーの方はすぐに、当日の宿泊先を手配してくれました。


鎮火後、消防の方ととりあえずの身の回り品を取りに家に入りました。
燃えたのは屋根裏から上だけだったのですが、家の中は散々で、
どこもかしこも水浸し、これが我が家かと目を覆いたくなるほどの惨状でした。
クローゼットは扉が閉まっていたにもかかわらず、中の衣類は全てびしょぬれ、
使えるものは何一つありませんでした。
体の力が抜けて、一瞬、生きる気力を失いました。


家族みんな、焦げ臭い匂いをさせて、手配してもらったホテルへ車で向かい、
翌日着るものも無かったので、閉まる寸前のヨーカドーで下着やとりあえずの
衣類を買い、泣きながら床につきました。
他人の匂いたっぷりのホテルの部屋で、家を失った惨めさを嫌と言うほど
実感させられました。


その夜はほとんど眠ることができませんでした。